デザインで紡ぐ企業文化。価値観の可視化が組織を動かす原動力に
現代企業に欠かすことのできない存在が「企業文化」です。
それは組織が大切にする価値観や行動指針、つまりミッション・ビジョン・バリューなどに込められた理念から生まれるものです。
しかしながら、これらの価値観は概念的で抽象度が高く、言葉だけでは社員に浸透させることは簡単ではありません。
そこで重要な役割を果たすのが「デザイン」の力なのです。デザイン思考のプロセスを経ることで、企業文化の本質を可視化し、ストーリーとして体現することができます。そうすることで価値観が組織の原動力となり、強力なブランディングにもつながるのです。
企業文化の根源にあるものとは
企業文化とは、その組織にとって大切にすべき価値基準や行動規範のことを指します。多くの企業ではこれをミッション(存在意義)、ビジョン(目指す姿)、バリュー(重要な価値観)として定義し、経営の礎を成しています。
例をひとつ挙げましょう。
あるITベンチャー企業のミッションが「テクノロジーで人々の可能性を広げる」、ビジョンが「常に新しいイノベーションを生み出し続ける会社になる」、バリューが「自由な発想」「フェアな評価」「スピード重視」などと設定されていたとします。
この場合、この企業では製品開発において、最先端のテクノロジー動向を常に注視し、社員の新しいアイデアを歓迎し、スピーディーな実行を心掛けるという文化が醸成されることでしょう。
一方、別の製造業の企業でミッションが「モノづくりを通じて社会に貢献する」、ビジョンが「確実に製品で顧客に感動を与え続ける」、バリューが「徹底した現場主義」「お客様第一」などだとすれば、現場重視の姿勢と、品質向上を絶えず追求する企業風土が生まれると考えられます。
このように、企業文化の核となるミッション・ビジョン・バリューが、組織の在り方や行動様式を決定する土台となっているのです。
しかし、こうした理念を言葉だけで伝えても、社員全員にその精神が浸透するのは難しく、バラツキや解釈の違いが生じてしまいます。企業文化を確実に根付かせるには、デザインの力を活用することが不可欠なのです。
デザインで企業文化を体現する
デザイン思考とは、ユーザーの立場に立って課題を発見し、アイデアを具現化するプロセスのことです。このアプローチを企業文化の浸透に役立てることで、以下のようなメリットがもたらされます。
ストーリーとしての可視化
企業のミッション・ビジョン・バリューといった抽象的な概念を、イラスト、動画、マンガなどの視覚的な表現に落とし込むことができます。
言葉だけでは伝わりきれなかった本質が、わかりやすいイメージで表せるようになります。
例えば、イノベーション企業であれば、社員が新製品のプロトタイプを作る様子を描いた動画や、ユーザーへの思いが込められたストーリーマンガなどが考えられます。
双方向の交流促進
ワークショップなどを開催し、社員自身に企業文化を表現するアイデアを出してもらうことで、一方的な押し付けではなく、能動的な関わりが生まれます。
アイデアを出し合い、議論を重ねる過程で、企業文化への理解が深まっていくでしょう。デザイナーはファシリテーターとしてこのプロセスを援助します。
行動指針の明示化
企業文化を視覚的に体感することで、抽象的だった理念が具体的な行動の指針となり、個々人がその精神を日々の業務に活かせるようになります。
例えば徹底した現場主義の製造業であれば、製造ラインの工程をイラスト化し、どの時点でどんな心がけが必要かを解説するなどが考えられます。
ブランディング価値の最大化
デザインによって可視化された企業文化は、単なる製品やサービスを超えて、その組織自体の価値やストーリーを語るブランディングの源泉となり得ます。
例えば、自社の価値観をまとめたコーポレートムービーを制作し、社内外の関係者に広く共有することで、強力なブランディングツールになります。
企業文化の浸透は一朝一夕にはできません。しかしながら、デザインを有効に活用していくことで、組織全体で企業文化への理解を徐々に深め、共有していくことができます。
経営層とデザイナーが手を取り合い、企業の本質的な価値観とビジョンを体現する「物語」を継続的に紡ぎ続けることが、企業文化の確立への第一歩となるのです。
物語を語るためのデザインの役割
企業文化の物語を語るためには、デザインには大きな役割があります。デザインの可能性は多岐にわたり、言葉だけでは表し切れない企業の価値観を、体験可能な形に落とし込むからです。
デザインの役割と持っている力をご紹介していきましょう。
理解を促進する力
デザインには、抽象的な概念を具体的な視覚表現に置き換える力があります。言葉だけでは伝わりにくい企業文化の理念を、イラストや動画、マンガなどで示すことで、社員の理解を大きく促進することができます。
視覚的にわかりやすく示されれば、その意味が体感として伝わってくるでしょう。
共感を呼ぶ力
デザインのプロセスに社員自身が関与することで、企業文化への共感が生まれます。ワークショップなどを活用し、デザインを通じて主体的に向き合えるような機会を設けることが重要です。
自分たちで考え、表現することで、言葉にできなかった思いを形にでき、深い理解につながります。デザイナーは、そのファシリテーターとなります。
行動を導く力
企業文化を体感的に理解することで、それまで抽象的だった理念が、具体的な行動の指針となります。イラストや動画などのデザインによって、「自分はこうすべきだ」と日々の業務にどう活かせばいいかが明確になるのです。
視覚化されたストーリーは、社員一人ひとりが企業文化の精神を体現する道しるべとなり、行動を導いてくれます。
ブランディングにつながる力
デザインによって可視化された企業文化は、組織自体の価値やストーリーを語るブランディングの源泉ともなり得ます。
例えばコーポレートムービーなどのコンテンツを制作し、社内外の関係者に広く発信することで、自社のブランドメッセージを強力に届けることができるでしょう。
デザインは企業の魂を伝える手段として、内外にインパクトを与えられるのです。
このように、デザインには企業文化を体現するための多様な可能性が秘められています。デザインの力を最大限に活用することで、組織の一体感を醸成し、社員の行動原理となり、ブランディング力を高めることにもつながるのです。
経営層の役割
企業文化の確立に向けて、経営層にはデザインの重要性を認識し、積極的に活用していく姿勢が求められます。デザイナーと協力しながら、以下のようなことに取り組む必要があります。
継続的な可視化の実施
企業文化の核心である価値観を、デザインによって継続的に可視化し、物語として体現し続けることが不可欠です。
単発のプロジェクトで終わらせるのではなく、ビジョンの進化に合わせて、表現の形を進化させていく必要があります。経営層が主導し、デザイナーとビジョンを共有しながら、その実現を図っていきます。
社員参画の機会の創出
ワークショップなどを通じて、デザインのプロセスに社員を積極的に参画させることが大切です。
経営層の考えだけを押し付けるのではなく、社員自らの言葉で企業文化を表現できるよう機会を設けます。デザイナーはその場を仕切り、ディスカッションを促進する役割を担います。
全社的な浸透活動の推進
デザインによる可視化した企業文化を、組織の隅々にまで行き渡らせる活動が求められます。
社内外向けのコンテンツを制作したり、研修やイベントを開催したりと、あらゆる機会を捉えて発信していく必要があります。経営層が中心となって全社的な浸透を推進します。
企業文化を確立させるために、経営層はデザインの力を最大限に活用する覚悟が必要不可欠なのです。
言葉だけでは限界がある企業の魂を、デザインによってビジュアル化し、体感できる形にすることが肝心なのです。
デザイナーと経営層が一丸となって取り組むことで、企業文化が組織の原動力として確実に根付き、社員一人ひとりの行動原理となり、強力なブランディング力を生み出していくことができるでしょう。
まとめ
企業文化は言葉だけでは伝えきれない、組織の根源的な価値観です。しかしデザインを活用することで、その本質を視覚的に体現し、ストーリーとして語ることができます。
そうすることで、企業文化は社員の理解を促し、共感を呼び、行動を導き、ブランディングにもつながるのです。
経営層がデザインの重要性を認識し、プロのデザイナーと協力して、継続的に企業文化の可視化に取り組むことが何より肝心です。単に価値観を伝えるだけでなく、社員自身に考えさせ、表現させるワークショップなども効果的でしょう。
企業文化が確実に浸透すれば、組織の一体感が高まり、社員一人ひとりが価値観を体現して行動するようになります。デザインが企業文化の物語を語ることで、組織は大きな原動力を得て成長を加速させることができるのです。
経営層とデザイナーが手を取り合い、デザインの可能性を存分に発揮することが、企業文化の定着と進化を実現する鍵となるでしょう。
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