法人向けオリジナルモバイルバッテリー・充電グッズの作り方|PSE適合・容量・名入れを品質管理視点で選ぶ完全ガイド2026
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展示会の終了30分前、ブースに残っていた配布物はパンフレットだけだった。用意した300個のモバイルバッテリーは、初日の午後には無くなっていた。「来場者が自分から取りに来る配布物は、これしかなかったです」——BtoB SaaS企業のマーケティング担当者の言葉だ。
ただ、その担当者が続けた話のほうが重要だった。翌年、別のサプライヤーから安く仕入れた同型品にPSEマークの表示がなく、社内の法務チェックで配布直前に止まった。刷り直しではなく、まるごと差し替えになった。
モバイルバッテリーは、法人向けオリジナルグッズのなかで「喜ばれやすさ」と「法規制の厳しさ」が同居する珍しいアイテムだ。この記事では、PSE適合の確認ポイント、容量の決め方、名入れ加工の選択、航空機に持ち込む場合の制約まで、実際の発注で判断が必要になる順に整理する。
モバイルバッテリーが法人配布で選ばれ続ける理由
配布物には「その場で嬉しいもの」と「後で使われるもの」がある。この2つを同時に満たすアイテムは多くない。
モバイルバッテリーが強いのは、使用シーンが受け取り手の生活のなかに自然に組み込まれる点だ。外出時のカバン、出張時のスーツケース、デスクの引き出し。ロゴが目に入る回数が、Tシャツやタオルとは桁で違う。
加えて、受け取り手を選ばない。年齢・性別・職種を問わずスマートフォンは持っている。取引先の役員に渡しても、インターン生に渡しても、使われないという事態が起きにくい。
リチウムイオン電池は、発火リスクを持つ部材だ。単価だけで選んだ結果、社名の入った製品が事故を起こせば、損害はグッズの制作費では収まらない。モバイルバッテリーは、品質管理の水準がそのままブランドリスクの水準になるアイテムだと考えたほうがいい。
最初に確認するのはPSEマーク
日本国内でモバイルバッテリーを扱うなら、電気用品安全法(電安法)への適合が出発点になる。
リチウムイオン蓄電池は2018年2月1日に電気用品安全法の規制対象へ追加され、1年間の経過措置を経て2019年2月1日から表示義務が完全適用された。対象となるのは体積エネルギー密度が400Wh/L以上のリチウムイオン蓄電池で、市販されているモバイルバッテリーの大半がここに含まれる。
モバイルバッテリーは「特定電気用品以外の電気用品」に区分される。そのため、製品本体に表示されるのは丸型のPSEマークだ。菱形は特定電気用品向けなので、モバイルバッテリーで菱形が付いていたら、その時点で表示の理解が怪しいサプライヤーだと判断していい。
本体表示で見るべき4項目
| 表示項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 丸型PSEマーク | 本体に印刷・刻印されているか。シールの貼付のみだと剥離のリスクがある |
| 届出事業者名 | 経済産業省へ届出をした事業者の名称。輸入品なら輸入事業者名が入る |
| 定格容量・定格電圧 | mAhとVの両方。Wh換算の根拠になるため、後述の航空機規制の判定にも使う |
| 製造年月・ロット | 万一の回収時に対象を特定できるか。トレーサビリティの有無は品質管理体制の指標になる |
発注前に、サプライヤーへ届出書類と試験成績書の提示を求める。「PSE取得済みです」という口頭確認だけで進めない。書類が出てこない案件は、社内稟議の段階で止まると考えておいたほうがいい。
名入れ加工とPSE表示の関係
見落とされやすいのが、加工によって法定表示を隠してしまうケースだ。本体背面に印刷されたPSEマークや届出事業者名の上に、ロゴを重ねて印刷することはできない。
そのため、名入れの位置は「表示エリアを避けたうえで、ロゴが最も映える面」を探す作業になる。デザインを先に決めてから製品を選ぶと、この制約で手戻りが出る。製品選定と名入れレイアウトは同時に進める。
容量の決め方——大きければいいわけではない
容量選定は、配布シーンと携帯性のトレードオフで決まる。「大は小を兼ねる」が最も当てはまらないカテゴリだ。
| 容量 | スマホ充電の目安 | 向いている配布シーン |
|---|---|---|
| 5,000mAh前後 | 約1回 | 展示会・セミナーの当日配布。薄型カード型が中心で、持ち帰りの負担が小さい |
| 10,000mAh前後 | 約2回 | 最も汎用性が高い帯。周年記念品、内定者フォロー、社員配布に使いやすい |
| 20,000mAh前後 | 約4回 | 出張の多い部署、フィールドエンジニア、災害備蓄。重量が増えるため配布対象を絞る |
展示会で20,000mAhを配ると、その重さが来場者のカバンで嫌われる。逆に、営業車で一日中動く社員に5,000mAhを渡しても足りない。誰が、どこで、何のために使うのか——ここを一文で言えないまま容量を決めると、だいたい外す。
出力(W)を仕様書で確認する
容量と同じくらい体験を左右するのが出力だ。USB Power Delivery(USB PD)に対応していれば急速充電ができ、ノートPCの給電にも使える製品がある。
スマートフォン中心なら18W〜20Wで十分に速い。ノートPCまで想定するなら30W以上を目安にする。この一行を仕様書に入れておくかどうかで、受け取り手の満足度が変わる。
航空機に持ち込むときの制約
海外拠点への発送、出張者への配布、外国からの来賓へのギフト——これらを想定するなら、Wh(ワットアワー)の確認が必要になる。
換算式はシンプルだ。Wh = mAh ÷ 1,000 × 定格電圧(V)。リチウムイオン電池の定格電圧は3.6V〜3.7Vが一般的なので、10,000mAhなら約37Wh、20,000mAhなら約74Whになる。
| 容量(Wh) | 機内持ち込み | 預け入れ荷物 |
|---|---|---|
| 100Wh以下 | 可(個数制限なし) | 不可 |
| 100Wh超〜160Wh以下 | 航空会社の承認を得て2個まで | 不可 |
| 160Wh超 | 不可 | 不可 |
市販帯のモバイルバッテリーは100Wh以下に収まるため、通常の配布で問題になることは少ない。ただしリチウムイオン電池は預け入れ荷物に入れられないため、まとめて海外へ運ぶ計画は成立しない。国際配送も航空危険物として扱われ、通常の宅配便では送れない。
輸送の制約に加え、国ごとに安全規格が異なる(米国はUL、欧州はCEなど)。日本でPSE適合品を作っても、そのまま海外で配れるとは限らない。グローバル展開が前提なら、デザインだけを共通化して製造を分ける設計のほうが現実的だ。
名入れ加工の選び方
モバイルバッテリーの筐体は、アルミ、ABS樹脂、ファブリックなど素材の幅が広い。素材によって最適な加工が変わる。
| 加工方法 | 仕上がり | 向いている条件 |
|---|---|---|
| レーザー刻印 | 素材の地色が出る。摩耗にきわめて強い | アルミ筐体。単色ロゴ。長く使われる記念品に最適 |
| UVインクジェット印刷 | フルカラー。グラデーションも再現できる | 樹脂筐体。多色ロゴやイラストを載せたいとき |
| パッド印刷 | 曲面に追従する。単色〜数色 | 凹凸や曲面のある筐体。小ロットでも版が起こしやすい |
| シルクスクリーン | インクの盛りが出て発色が強い | 平面が広く取れる筐体。ベタ面の視認性を上げたいとき |
迷ったらレーザー刻印を薦めている。理由は経年変化だ。印刷はカバンのなかで擦れて欠ける。刻印は素材そのものを削るため、3年後も同じ状態で残る。企業ロゴが半分かすれた状態で持ち歩かれるより、控えめでも消えないほうがいい。
ブランドカラーを出したいときの判断
コーポレートカラーの再現を優先するなら、筐体色そのものを指定色で成型する方法がある。ロットは大きくなるが、ロゴだけを載せた既製色の製品とは仕上がりの説得力が違う。周年記念のように「一度きり、しかし全社員に配る」案件では検討する価値がある。
ケーブル・充電器という選択肢
予算や配布規模の都合でモバイルバッテリーが合わない場合、同じ「充電」の文脈で別のアイテムが機能する。
- USB-C充電ケーブル:単価を抑えられる。編組(braided)素材にすると安っぽさが消え、耐久性も上がる。ケーブルタグに名入れする設計が定番
- ワイヤレス充電パッド:デスク常設型。オフィスや在宅の作業机に置かれるため、視認回数が長期にわたる
- USB-C ACアダプター:GaN(窒化ガリウム)採用の小型高出力タイプは、出張者に確実に喜ばれる。ただし電気用品としての規制はモバイルバッテリーと別建てで、こちらも適合確認が要る
- ケーブル+ポーチのセット:単体では弱い配布物も、パッケージ設計でギフトの見え方に変わる
ワイヤレス充電パッドは、コーポレートカラーの面積を大きく取れる点で優秀だ。天面がまるごとデザイン面になるため、ロゴを小さく置いても成立する。
ロット・納期・コストの考え方
モバイルバッテリーの見積もりは、単価だけを比べても意味がない。動く要素が多いためだ。
- 容量とセル品質:同じ10,000mAhでも、採用セルのグレードで原価は大きく変わる。ここを削った製品が、後の事故につながる
- 加工の版代・初期費用:レーザーは版が不要、印刷は版代がかかる。ロットが増えるほど1個あたりの版代は薄まる
- パッケージ:既製の白箱か、オリジナル化粧箱か。開封体験を設計するなら箱は無視できない
- 納期:既製品への名入れなら短い。筐体成型から起こすなら数ヶ月単位で見る
スケジュールで最も読み違えやすいのが、サンプル確認の往復だ。ロゴの見え方、刻印の深さ、色の乗り方は、画面上のデータでは判断できない。現物を一度見る前提で逆算する。周年や式典など日付が動かせない案件では、この確認期間を先にカレンダーへ置いてしまうといい。
私たちは印刷・製造を手がけるMSAグループの一員として、外注任せにしない体制でカルチャーグッズをつくっています。電気製品は自社工場の領域外ですが、だからこそ提携先の選定基準を厳しく持ち、適合書類とサンプル検品を通してからご提案しています。BCorp認証(国内51番目)を取得した企業として、安全性と環境配慮を単価より前に置く判断をしています。
配布シーン別の設計
展示会・カンファレンス
薄型・軽量が絶対条件になる。来場者は他社のパンフレットも抱えて歩いている。5,000mAh前後のカード型で、パッケージは小さく。ロゴよりも「何をしている会社か」が一目で分かるコピーを添えるほうが、後日の想起につながる。
周年・創立記念
全社員に配るなら10,000mAhが基準になる。ここは記念品なので、刻印+オリジナル化粧箱で仕上げたい。日付やスローガンを小さく刻んでおくと、何年経っても「あのときの」が残る。
内定者フォロー・オンボーディング
入社前後の学生・中途入社者に渡すウェルカムキットの一点として機能する。就職活動や引っ越しの移動が多い時期に、実用性が高い。他のアイテムと箱にまとめる構成が向いている。
取引先・パートナー向け
贈答の色が強くなるため、企業ロゴの主張は抑える。刻印を小さく、素材の質感で語る設計に切り替える。社外へ贈る場合の考え方はCultureGiftのページで整理している。
発注前チェックリスト
- 丸型PSEマークと届出事業者名が本体に表示されているか
- 届出書類・試験成績書をサプライヤーから受け取れるか
- 名入れ位置が法定表示と干渉しないか
- 容量が配布シーンと合っているか(重量も確認する)
- 出力(W)が用途に足りているか
- 海外配布があるなら、輸送方法と現地規格を確認したか
- サンプル確認の往復期間を納期に織り込んだか
- 製造ロット番号で追跡できるか(回収時の備え)
- パッケージまで含めて開封体験が設計されているか
このリストのうち、上4つは社内の法務・総務レビューで必ず聞かれる。先に潰しておくと、稟議が一往復減る。
安全性は、ブランドの一部として設計する
モバイルバッテリーは、企業名を刻んだ電気製品を人の手に渡す行為だ。使われる頻度が高いからこそ、事故が起きたときの結びつきも強い。
逆に言えば、きちんと選ばれた一個は、数年にわたって毎日カバンのなかにある。日常の動作のなかで、その会社の名前が繰り返し目に入る。これほど接触時間の長いグッズは他にない。
選定の順番を間違えないことだ。単価から入らず、適合と品質から入る。そのうえでデザインを詰める。順番さえ守れば、モバイルバッテリーは法人向けカルチャーグッズのなかでも投資対効果の高い一手になる。
制作の進め方や他のアイテムとの組み合わせは、グッズのいろはで他の記事も公開している。実際の制作事例は制作実績から見られる。